ひな菊と黒い犬

まあまあそこそこほどほど

9月文楽公演 "近頃河原の達引" "本朝廿四考(襲名披露狂言)"

9月文楽公演は、五世豊松清十郎襲名披露公演ということで、チケットが発売開始直後から全く入手できず、無理かなあと諦めつつもチケットセンター(オンライン)に日参。一公演を何回も観ているひとがいる一方で、1回観るのにもチケット入手に苦労する人がいるという文楽業界は、ちょっと間違っている気がする。

まあともかくもその甲斐あってか、千秋楽の前日・20日のチケットに空きあり!席も8列23番24番! おそらく誰かのキャンセルのおかげ、で、18日に入手することができたのでした!

文楽観劇は装いを楽しむものでもあると思っている私にとっては、是非着物で行きたかったのだけれど、時期的にどの着物にしようかと悩んでいる間に前日になり、しかも前日の仕事が長引き、準備もままならぬまま当日を迎えてしまったので、結局お洋服でおでかけしました。

9月中旬の着物は、もう夏ではないということで、単の着物に透けのない帯。季節先取りの美、で袷でもよいくらいだそう。下着で調節しても暑いだろうなあというのもあり、予報が雨だったこともあってお着物の方は少なかったです。時期柄もあってか、幾何学模様の人が多かった。あと襲名披露のためか、無地の人も多い。こういう季節を選ばない柄が単には重宝するのかも。

さて今回は都合もあって車でおでかけ。8時出発9時には国立劇場に到着。早すぎたなあ~と思ったけれども、駐車場の係の人がいてくれたので入庫。観劇終了まで500円というのは安いね。

 

「近頃河原の達引」(ちかごろかわらのたてひき)は、心中物では、珍しいくらいに?真っ当な人が真っ当に生きようとして、そして死んでいく話です。前回「冥土の飛脚」で忠兵衛&梅川を観たあとなだけに、「近頃河原の達引」の伝兵衛&おしゅんは、心中しなくていいじゃないか、と心底思ってしまう話。まあ、心中物といっても心中シーンはなくて、そう匂わせるだけなのだけれど、三味線稽古で心中物、猿回しでお初・徳兵衛とくどいくらいの暗喩。お初と言うべきところをおしゅんといい間違えてしまうあたり、本当にニクイ話だと思う。

四条河原の段では、血糊の演出に生々しさを見、堀川猿廻しの段では、おしゅんが出てきたときの美しさに感動した。おしゅんの耐える姿、うつむく角度、頭を動かすスピード、そういうのがもうこれ以外にないっていうくらい美しい。猿回しもよく動いていて面白かったけれど、私はずっとおしゅんにうっとりしてた気がする。でも私はどうも住大夫と相性が悪いのか、いまいちくどきにぐっとこない。

 

「口上」は、初めて見ました。襲名する本人は何も言わないと聞いていたけれど、何度も頭を下げている姿に奥ゆかしさを思う。今の文楽をつくってきたお歴々な方々に何度も「よろしくお願い申し上げます」と言われると、芸をつくっていくのは私たち観客なのだなあという気になった。私はこれまで、日本で何指に入るかという人々の芸を観させてもらってるという気でいたけれども、世代交代を考えると、その人たちの芸を観ていられるのはきっとあと何年かで、私がこれから何年も文楽を観ていけば、これから襲名する人の芸を見る方がきっと長くなるわけで、私は今回清十郎さんがどういう人なのかもよく分からずに観に来たけれども、これから注目していこうという気持ちになったのでした。

 

さてその襲名披露は「本朝廿四考」。十種香の段は、お気に入りの嶋大夫。奥ゆかしさと大胆さを行きつ戻りつする恋心は本当に観甲斐がある。「さてはあなたが勝頼様、と云う口押さえて」のくだりが色気ありすぎです。「奥庭狐火の段」は、狐の動きの細かさ、そして大胆な動きに驚いた。初日のあたりにはまだ堅苦しいという感想もあったのでどうなんだろうと思ったけれども、明日が千秋楽、というのもあってか、大胆な八重垣姫が観られました。

 

さて帰りに伝統芸能情報館にちょっと寄ったら、歌舞伎を特集していて、歌舞伎の八重垣姫を見てしまった。歌舞伎ファンの人には悪いけれど目の毒でした・・・。歌舞伎は一度も観たことがないので一回は観たいと思っているけれどもこんなことではしばらく観ないな。結局私は人形が好きなのだ。