ひな菊と黒い犬

まあまあそこそこほどほど

杉本文楽 木偶坊 入情 曾根崎心中 付り観音廻り in 神奈川芸術劇場

地震で中止の3月公演が、3日間だけ復活公演。日・月・火の公演で、月火ははずせない仕事なので、いけるの日曜だけ。チケットを買おうとしたときには既に満席でしたが、空き状況をちまちま確認してようやく3階席をゲット。3階席ってどうなの、と思ったのだけれど、観られないよりマシと思い購入。

いただいたギフト券がロイヤルパークホテルに使えることがわかり、前泊。68階で夕食、56階に宿泊、70階で朝食ですわー。午前中はヨコハマトリエンナーレを堪能。

さて神奈川芸術劇場杉本博司が構成、演出、舞台美術の杉本文楽、と銘打っているせいか、若者多い!

非常灯も消灯して真っ暗闇からのスタートは、江戸時代の見世物小屋ってこんな感じだったのかな~というのが想像できてよかった。人形遣いが、いつもと違って黒子に徹しているのも、人形に集中できていい。蝶や人魂が、ほんとうに飛んでいるように見える。

まあ残念ながら手元も真っ暗なので床本は観ることができず。原文に忠実にという主旨だったので、手元の資料では一番近いと思われる岩波文庫を何度も事前に読んでおいたけれど、名文句以外はよく聞き取れず、残念。

確かに現在やってる床本から比べると、回りくどくてテンポが遅い印象がある。文楽そのものすら、最初聞いたときには遅すぎて何言ってるかわからない印象だったけれど、ようやくそれにも慣れてきて、何回も観たから大丈夫だろ、と思う「曽根崎心中」という演目なのに、遅すぎて聞き取れず。江戸時代の人との時間間隔の差を埋めるのは厳しいな、というのが正直な感想。でもラストの「恋の手本となりにけり」が聞けたのはよかった。

しっかし3階席はきつかった。映像で人形ドアップもあるのだけれども、顔が天井で見切れてます(落涙)。双眼鏡持参したけど、必須。今回一番観たかった観音廻りは、一人遣いということもあって人形遠いよー。双眼鏡で見ていると、双眼鏡の外を見落とすので、時々全体を俯瞰。

花道も使って奥行がある演出だったのは新鮮でよかった。観音巡りの写真は、寺の名前が出てて、それはそれで分かりやすいけど興ざめかなー。せっかく杉本作品なら、観音様そのものの写真が出るとよかったなあ。せめて寺。まあそれがなかったせいか、観音様の登場には驚いた。あれどこから持ってきたものやら。

松林の映像は、あまり密集したものではなくて、どこかの浜のよう。私は曽根崎の森はもっと暗くて陰鬱、人気がなくて閑散とした寂しいところ、というイメージがあったので、曽根崎は私が思うよりもっと海寄りな場所なのかも、と想像を改訂するに足る映像でした。

斬新さを期待した割には、それほどでもなくて、伝統芸能の枠の強さというか、研ぎ澄まされてできあがった様式美を崩すのは難しいと感じさせられたりも。

簑助の徳兵衛は、「男の一分」を語るには男気が少ない感じ、と思いながら見ていたのだけれど、ラストのお初を殺そうとするシーンで、何度も切っ先が逸れる様はまさに「愛し可愛いと締めて寝し肌に刃が当てられふか」の心情が出てて、ああこれがこの男の魅力か、と思う。

対して勘十郎のお初は、簑助が遣うお初にくらべると色気が足りない感じだと思ったけれども、一度決めたら迷わないという、静かだけれども頑なな意思表示があり、刺されたあとも満足げ。

カーテンコールがあって、簑助が何度も挨拶してくれて可愛かったのがよかった。そして勘十郎の疲労困憊っぷりが凄くて驚いた。新しいことにチャレンジするというのは、本当に大変なことなのだろうな。

横浜まで行った甲斐があった。観音巡りをしたくなった。

このポスターが欲しかった